世界の子どもたちは、何歳で「進む道」を選ぶのか

―中学受験を、世界地図の上で見てみる―

志望校選びが本格化するこの時期、ふと「海外の子どもたちは、いつ、どうやって進む学校を決めているのだろう」と思ったことはありませんか。日本の中学受験は身近な話題でも、世界の中での位置づけは意外と知られていません。今回は、世界の12歳前後の進路選びを見ながら、日本の中学受験の特徴を考えてみます。

世界の子どもたちも、12歳前後で「進む道」を選んでいます

イギリスのイングランドには、学力で入学者を選ぶ公立の進学校「グラマースクール」が100校以上残っています。入学のための試験は「イレブンプラス」と呼ばれ、小学校最終学年の秋、10歳か11歳のときに受けます。名前は、進学先の学校に11歳以上の年齢で入ることに由来します。

ドイツでは、多くの州で小学校が4年間で、10歳前後で進路を選びます。大学進学をめざす「ギムナジウム」に進むのか、職業教育につながる学校に進むのかを、担任の先生の推薦などをもとに決めます。州によって細かな仕組みは違い、最終的な決定は保護者に委ねられる州もあります。

シンガポールでは、小学6年生の全員が「PSLE」という全国試験を受け、その成績をもとに中等教育の進み先が決まります。

12歳前後で学びの道が分かれる仕組みは、世界のあちこちにあるのです。

同じ「12歳前後」でも、選び方は国ごとに違います

ただし、道の分け方は国によってかなり違います。

イギリスやシンガポールは、試験の結果で選ぶ仕組みです。ドイツは教員の推薦と保護者の意向を合わせる形です。韓国や中国は、試験で選ぶことをやめ、抽選や居住地を軸にした仕組みに移ってきました。

シンガポールは近年、試験の「点数の細かな差」が生む過度な競争を和らげようと、制度を見直しています。2021年に、細かな点数で順位をつけるT-scoreをやめ、教科ごとに1〜8の「段階」で評価する方式に変えました。4教科の合計は4〜32で、点数が低いほど良い成績です。2024年からは、成績に応じて決まる従来の3つのコースの区分もなくなり、教科ごとに学ぶレベルを選べる仕組みに変わりました。

世界の国々は、「どの年齢で、どんな方法で、子どもの道を分けるのがよいか」を、今も試行錯誤しているのです。

「試験をなくせば楽になる」わけでもありません

「中学入試をなくせば、子どもの負担は減るのでは」と思う方もいるでしょう。韓国は1969年に中学校の入試をやめ、入学者を抽選で決める制度に切り替えました。受験競争の過熱が社会問題になっていたためです。

ただ、その後の韓国では、競争の主戦場が大学入試へ移ったと言われています。試験をなくしても、競争そのものが消えたわけではなく、場所を変えたのです。

中国でも、義務教育の9年間は居住地に近い学校へ通う「就近入学」が基本です。北京などの大都市では、名門校への入学をコンピュータによる割り当てで決める改革が進められました。一方で、時間とお金をかけて準備してきた家庭からは、不満の声もあがりました。さらに2021年には学習塾への大規模な規制が行われました。人気校の学区の住宅が値上がりする問題も指摘されています。

どの方法にも、良い面と難しい面があります。だからこそ各国は、制度を調整し続けているのだと思います。

日本の中学受験の特徴は、「選べること」と「やり直せること」

では、日本はどうでしょうか。日本では、公立中学に進めば受験の必要がありません。そのうえで、「うちの子に合う学校を、家庭が選べる」仕組みが用意されています。実際に私立中学へ進むのは全国では約5%ですが、首都圏では2024年春の受験率が18.12%、およそ5人に1人まで高まっています。

「12歳で選ぶのは早すぎないか」という声もあります。ドイツ出身の日本文化に詳しい著者は、10歳で進路が分かれるドイツの仕組みを紹介しながら、日本は「長く夢が見られるシステム」でもあると語っています。中学で思うような結果にならなくても、高校受験、大学受験と、挑戦のチャンスは何度も続きます。12歳の選択は、人生の行き先を決めるものというより、成長の舞台を選ぶ機会に近いのかもしれません。

まとめ

世界のどの国も、子どもの学びの道をどう分けるかに頭を悩ませてきました。どの制度にも一長一短があり、完璧な答えはまだ見つかっていません。

だから、秋の志望校選びで大切なのは、「どの制度が正しいか」でなく、「この子が、自分の足で歩いていける場所はどこか」を一緒に考えることです。学校見学で目にした表情、説明会で聞いた言葉、お子さんが「ここで学びたい」と言った瞬間。その一つひとつが、世界のどんな制度の数字よりも確かな手がかりになります。

お子さんと一緒に悩み、選ぶ時間そのものが、これからの中学生活を支える大きな力になるはずです。