「兼聴則明」――名君・太宗に学ぶ、秋の志望校選びで“耳を開く”ということ
模試の結果が返ってくる、学校説明会の案内が届く、SNSやママ友からは「あの学校はこうらしい」という話が聞こえてくる。秋は、志望校に関する情報が一気に増える季節です。情報が増えるほど、かえって迷いが深まるという保護者の方も多いのではないでしょうか。
そんなときのヒントになるのが、1,300年ほど前の中国の書物『貞観政要』です。
『貞観政要』は「聞く力」の教科書
『貞観政要』は、唐の名君として知られる太宗(李世民)と、その臣下たちとの問答をまとめた書物です。日本でも鎌倉時代以降、政治を担う人々に長く読み継がれてきました。
この本の中で繰り返し語られるのが、臣下の魏徴が説いた「兼聴則明、偏信則暗(けんちょうすればすなわちあきらかに、へんしんすればすなわちくらし)」という言葉です。いろいろな人の意見に耳を傾ければ物事が明らかに見え、一方の話だけを信じれば道を誤る、という意味です。
リーダーの判断力は、頭の良さよりも「どれだけ広く聞けるか」で決まる。太宗はそう考えていました。これは、お子さんの進路という大きな決断を前にした保護者の姿と、よく重なります。
志望校選びで起こりがちな「偏信」
中学受験で起こりやすい「偏信」には、たとえば次のようなものがあります。
- 偏差値の数字だけで学校を判断する
- ネット上の評判や口コミだけで決める
- 保護者ご自身の出身校や、昔のイメージのまま考える
- 身近な誰かの一言を、そのまま信じ込む
どれも、間違った情報というわけではありません。ただ、一つの角度からしか見ていないという点で、「偏っている」のです。
「では、あちこちで話を聞いたら、かえって混乱するのでは」と思われるかもしれません。ここで大切なのは、兼聴は多数決ではないということです。意見の数を数えるのではなく、種類の違う声を集めることに意味があります。
たとえば、次の四つの声です。
- 数字の声:偏差値、入試の傾向、進学実績
- 学習面の声:塾の先生の見立て、お子さんの得意・不得意
- 現場の声:説明会や見学で感じる学校の空気
- お子さん本人の声
この四つが揃うと、一つだけでは見えなかった学校の姿が、立体的に見えてきます。
いちばん大切な声は、いちばん聞き逃しやすい
太宗が名君と呼ばれたのは、耳の痛い意見を言う魏徴を遠ざけず、そばに置き続けたからだといわれます。魏徴が亡くなったとき、太宗は「人を鏡とすれば、自分の過ちや足りない点がわかる」という意味のことを述べて、その死を惜しんだと伝えられています。
志望校選びで、この「鏡」にあたるのは、お子さん本人かもしれません。
小学生の言葉はたどたどしく、「なんとなく、あの学校が好き」「ここは、ちょっと緊張する」といった感想になりがちです。大人から見ると、判断材料としては頼りなく思えるでしょう。けれども、子どもは大人が気づかない空気の違いを、驚くほど正確に感じ取ります。そして、6年間そこで過ごすのは、お子さん自身です。
進路の決め方は、ご家庭ごとに違ってよいものです。お子さんと一緒に考えるご家庭もあれば、保護者の方が方向を定めるご家庭もあるでしょう。どちらの場合も、決める前にお子さんの声に耳を傾けておくと、入学後の学校生活に納得感を持ちやすくなる傾向があります。
合格は「創業」、その先の6年間が「守成」
『貞観政要』には、「創業と守成では、どちらが難しいか」という有名な問答があります。国を興すことと、興した国を保つこと。太宗は最終的に、これからは守成の難しさに向き合おうと語ります。
中学受験に置き換えれば、合格は「創業」です。けれども、子どもの成長にとって本当に大きいのは、入学してからの中高6年間、つまり「守成」の時間です。
だからこそ志望校選びでは、「合格できるか」だけでなく、「この学校で6年間、この子らしく過ごせそうか」という視点も大切にしたいのです。そのためには、一つの情報に頼らず、いろいろな声を聞いて選ぶことが、いちばんの近道になります。
まとめ
情報があふれる秋は、迷って当然の季節です。迷っているのは、ご家庭がそれだけ真剣に向き合っている証拠でもあります。
一つの声に寄りかからず、数字、学習面、学校の現場、そしてお子さん本人の声に、順番に耳を傾けてみてください。私たち塾も、その中の「学習面の声」のひとつとして、いつでもお話をうかがいます。焦らず、広く聞いて、ご家庭の答えを見つけていきましょう。

